部門別の研究内容

水質制御技術・素材 部門 水システム管理 部門 国際水環境 部門

社会連携講座の研究内容

国際下水疫学 社会連携講座

水質制御技術・素材部門


(1) ナノ構造高分子液晶膜を用いる水からのウイルスや微量有害物質の効率的除去

ウイルスや有害物の無い安全安心な水の確保は、世界的に重要な課題となっています。水中の微量有害物質の効率的な除去を可能にする多孔質高分子膜を開発しています。自己組織化により形成するサブナノあるいはナノメートルレベルの孔径が揃った秩序のあるチャネルを有する液晶高分子膜を活用は、ウイルスなどを高度に除去するのに有用であることが示されています。

写真: 液晶分子が秩序だった構造になる性質を利用した、水を浄化する水処理膜


(2) 水中ウイルス感染リスクの適正管理を目指して

水中のウイルスを中心に、水道、水環境、下水などの微生物学的安全性を確立することを目指しています。水道においてウイルス学的安全性確保に向けて、測定対象となるウイルス指標の選定や測定法の開発などを行っています。また、下水再生水の飲用再利用における安全性や、水浴リスク管理のための新たなウイルス指標の探索など、適正なリスク管理体制を提案できるように、研究を進めています。

画像:エンベロープウイルスの濃縮法評価・新型コロナウイルスRNAの検出
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(3) 膜ろ過技術を用いた安全な水供給システム

膜ろ過技術は浄水処理や海水淡水化、再生水処理、家庭用浄水器に至るまで広く普及してきています。その一方で、長期間の使用による劣化のため病原微生物が漏出するなど処理水の安全性の課題が顕在化してきています。我々は、ろ過膜の劣化による阻止性の変化とその機構について、膜構造解析とマルチフィジックスシミュレーションを用いて解明し、それに基づく新たな安全性モニタリングシステムを開発することで、安全な膜ろ過浄水システムの構築を目指しています。

写真:浄水施設の膜モジュール

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水システム管理部門


(1) 流域水環境における有機物の管理

多種多様な有機物が生活や産業から排出され、天然の有機物とともに水環境中に存在します。それらの一部はヒト健康や水生生物への有害性が懸念されるほか、消毒副生成物生成の原因となり、また水処理における障害の要因ともなっています。我々は、高分解能質量分析を用いて有機物を分子種レベルで把握することにより、未規制物質もふくめた幅広い有機汚染物質を監視し、各種課題の解決方法を示す研究に取り組んでいます。

写真:河川流域における未規制物質の調査


(2) 水利用・水処理における微生物制御

微生物は多くの場合有機物を利用して増殖し、また微生物による物質分解を利用して多くの水処理技術が実用化されています。しかし、水道水や河川水、廃水など様々な場において、水中の有機物組成も、微生物の組成もほとんど理解が進んでおらず、微生物増殖の制御や生物学的処理技術における微生物制御は概念的な理解に頼ったものが多いのが現状です。我々は、化学分析と生物分析の両面から微生物増殖を詳細に把握することで、水処理や水質管理の高度化を目指す研究を行っています。

写真:有機物を分子種レベルで把握するための高分解能質量分析装置


(3) 都市浸水リスクマネジメントの高度化

集中豪雨の発生頻度が増加するなか、浸水対策の高度化やスマート化が求められています。そこで、高解像度レーダー雨量観測や、マンホールIoT による下水道管渠内水位のリアルタイムセンシングなどの先端技術を活用した、次世代の都市浸水予測手法の開発を行っています。そして、高精度な浸水予測情報に基づいた治水ストックを最大限に活用する方策、被害軽減のための避難行動誘導や浸水防止計画などに関する研究をしています。

画像:鶴見川低平地における河川と下水管内水位を統合的に解析する新たな都市浸水モデル

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国際水環境部門


(1) 低中所得国および遠隔地で実装可能な分散型水供給システムの提案

低中所得国や遠隔地(山間、離島など)で安全かつ持続的な水供給を実現する技術を探求しています。特に、長大な管路網に依存しない分散型水供給システムに着目し、PoU型(使用時処理)、PoE型(建物入口処理)、集落水道型(地域管理)など、導入環境や地域ニーズに応じた技術提案を行っています。主にアジアの低中所得国や遠隔地を対象に、ステークホルダーと協働しながら分散型水処理システムの実証評価を行い、持続可能な水供給の実現を目指します。

写真:ネパールの中学校における分散型水処理システムの実証


(2) 紫外線を活用した水処理技術のグローバル展開

紫外線を活用した水処理は、広範な分野で導入されています。消毒用途では、水道、下水再生利用、食品飲料製造、水産養殖など、過度な消毒剤の使用を避けるべき場面で利用されています。一方、汚染物質分解では、紫外線を酸化剤や還元剤と併用することで、臭気物質や医薬品類を含む難分解性物質の処理に有効です。本研究では、紫外線技術の国際展開を視野に、北米、ヨーロッパ、アジアの研究者と連携し、多様な用途における適用性や課題を検証しています。

写真:タイの水産養殖場における紫外線消毒装置の性能評価


(3) アジア途上国への実装を見据えた分散型排水処理システムの開発

アジアの開発途上国では経済的な制限により生活排水処理技術の普及が遅れており、深刻な水質汚染を招いています。消費エネルギーを削減し、処理水質を改善することは、技術の普及促進につながります。そこで、省エネルギー型の分散型排水処理システムの開発と現地における性能評価に関する研究を進めています。

写真: タイ、バンコクの集合住宅に設置した排水処理実証試験装置


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国際下水疫学 社会連携講座


下水疫学調査は、感染者から排出されたウイルス等の病原体が下水処理場に集積するという下水道インフラの特性をうまく活用した公衆衛生情報取得手段であり、感染症発生の早期検知と感染動向把握のためのツールとして社会的に期待と注目を集めています。2024年3月に発足した国際下水疫学講座では、「下水疫学」という新たな学問分野を開拓するとともに、国内外での下水疫学調査の実装を通して感染症に強い社会の構築に貢献することを目指しています。

写真:下水処理場でのサンプル収集


(2) 下水疫学調査による薬剤耐性菌の蔓延状況モニタリング及び早期検出

抗菌薬が効かない薬剤耐性菌は、今や世界中で大きな問題となっています。当講座では、下水疫学により、対象地域・施設における薬剤耐性菌の蔓延状況を、効率的かつ効果的にモニタリングする手法を開発することを目指しています。また、高度薬剤耐性のきっかけになるような薬剤耐性遺伝子を、臨床で問題となる前に下水から早期検知し、初動対応に役立てることも目指しています。

写真:下水から単離された薬剤耐性菌