①水利用システムのデザインに向けた合意形成の支援
これまでの調査・研究で蓄積されたデータや知見に基づき、具体的な水利用システムのデザインを考える上で関係者の多様な選好をどのように反映させていくのか、円滑な合意形成の方法を考えます。

関係者の選好を水利用システムのデザインにどのように反映していくか?

これまで行われてきた選好評価は、既に設計されているシナリオ(=代替案)に対する住民の選好を把握する形式で行われることが多く、住民の様々な選好の違いは、代替案の設計段階においては十分に反映されていなかったと言えます。その結果、現状追認となる代替案が設計されがちになり、平均的な住民選好のみが考慮されるような状況に終始していました。しかし本来は、多様な選好の存在を把握し、その情報を共有しながら、特定の意見に左右されることなく議論を進めていくべきではないかと考えます。つまり、様々な住民の選好に配慮した多様な代替案が設計され、それをもとに議論を進めていくことが、円滑な合意形成へと導くために必要なプロセスであると言えます。
そこで今回のプロジェクトで私たちが目指したのは、「住民や関係者の様々な選好に対応した網羅的な水利用システムのシナリオを生成できるツールを開発すること」でした。
さらに、アンケート等によって幅広い市民・関係者の選好に関する情報を収集し、その特徴を把握すると同時に、その選好を持つに至った理由・背景を探ることも重要だと考えました。様々な水利用のシナリオと多様な市民の選好を比較しながら、具体的な代替案を設計し、それをもとに議論を進めていくことが、よりよい代替案の設計と選定に役立つはずだと考えます。(都市水利用デザイングループ)
選好評価の利用法
▲選好評価の利用法
まず合意形成のためのシナリオを生成し、様々な指標を軸に多目的最大化した代替案を設計することで、より客観的な議論が進んでいく
シナリオ生成と選好評価の連動
▲シナリオ生成と選好評価の連動
関係者の多様な選好に対応するシナリオを生成し、同時にそれぞれの関係者の選好特徴とその理由を把握することで、よりよい実施案の選択に近づける

関係者の選好をどのように把握するか?

前述のような考えに基づき、住民や関係者の選好をどのように把握するか、そのプロセスを検討しました。
まず、オンラインアンケートにより水利用システムに関する地域住民の選好に関するデータを集め、それらのデータに対して、評価する属性ごとの価値の評価が可能であるコンジョイント分析を実施し、住民はどのような属性を重視しているのかを明らかにします。さらに、それらの情報から、住民を似たもの同士のグループに分類(類型化)することで、それぞれの選好パターンを把握します。
荒川流域での調査・分析では、「様々な項目をバランスよく評価するグループ」、「コストを減らすことを重視するグループ」、「安全性を重視するグループ」、「地盤沈下など生活に直接関係する要素を重視するグループ」というように、4つのグループに住民を分類することができました。そして、グループ間の水道水に対する意識、近隣河川に対する意識、環境問題に対する意識の違いに着目して、各グループがどのような特徴を持つかを評価する、という方法を用いました。
その結果として把握できる各グループの特徴として、例えば、「安全性を重視するグループ」は、環境問題への関心が高く、水質に敏感であるという特徴が見られ、「コストを重視するグループ」では、水道水の水質への信頼が高く満足している一方で、近隣河川に対して有用性を感じていないことから、これらの項目にコストをかける価値を見いだしていないという特徴が、さらに、「地盤沈下を重視するグループ」では環境問題や近隣河川に対して関心が低く、水道水質は気にならないことから、地盤沈下のように生活に直接影響がある属性を重視している、というようなことが見えてきました。(都市水利用デザイングループ)
選好パターンの類型化
▲選好パターンの類型化
コンジョイント分析で得られた個人別の選好パターンをクラスター分析によって類型化する
荒川流域での調査により分類された4つのグループ
▲荒川流域での調査により分類された4つのグループ
それぞれのグループが何を重視しているか、また、何を重視していないか、選好の特徴を把握することができる
選好の背景の把握
▲選好の背景の把握
●水道水への意識 ●近隣河川への意識 ●環境問題全般に関する意識の質問(4段階)に対する回答データの主成分得点をグループ別に集計しレーダーチャート化。各グループの選好背景が把握しやすくなる
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