特別対談

研究成果を荒川の水利用にどう活かすか

「調和型都市圏水利用システム」の実現のために

今回のプロジェクトで得られた成果を、よりよい荒川の水利用システムの構築に向けて、今後どのように役立てていくべきか。
実際に荒川の管理に携わる荒川上流河川事務所所長の河村氏をお迎えし、将来への展望を語り合いました。
東京大学大学院工学系研究科 教授 本プロジェクト 研究代表 古米弘明 × 国土交通省 関東地方整備局 荒川上流河川事務所 所長 河村賢二 東京大学大学院工学系研究科 教授 本プロジェクト 研究代表 古米弘明 × 国土交通省 関東地方整備局 荒川上流河川事務所 所長 河村賢二

豪雨の頻発、渇水の深刻化などこの先の気候変動に対する具体的な危機感をイメージする

古米
本日はお忙しい中お越しくださり、ありがとうございます。今回のプロジェクトでの成果を、今後はぜひとも現場に反映させていきたいという思いがあり、河村さんとの対談の場を設けさせていただきました。
河村
どうぞよろしくお願いいたします。まず、荒川が抱える水利用における課題についてお話しできればと思います。荒川 は、流域内に住む方々の人口に対して流域に降る雨の量が、全国的に見ても圧倒的に少ないです。これは江戸時代から変わらず抱えている問題で、現在では、上流にダムが5つと調節池が1つあり、利根川から導水もしていますが、依然として利水の安全度は低く、平成25年の夏にも渇水が発生しています。生活用水にまで影響が及ぶことはありませんでした が、取水制限も出されました。数年に一度、こうした渇水があるのが荒川の現状です。
古米
大都市の水需要を支える河川流域として、利水安全度に対する不安があるというのは大きな危機感につながりますよね。今後の気候変動による水量・水質の変化に対応していくためには、表流水や地下水だけでなく、都市の自己水源である雨水や再生水の活用をいかに位置づけるかという点も、非常に重要です。
河村
確かに将来の気候変動がもたらす状況は深刻だと認識しています。これまでもそうした危機感は、我々河川管理に携わる者は、皆それぞれに持っていましたが、それが具体的にどういう危機なのか、どういった状況をもたらすのかというイメージまでは持てなかったんです。それが今回のプロジェクトによって、かなり具体的になったのではないかと思います。
古米
気候変動に関しては、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次報告書でも示されているように、全球気候モデル(GCM)と領域気象モデルを組み合わせたダウンスケーリング手法で導き出される気象データの将来予測結果は、非常に充実してきています。日本は一歩リードしている状況です。そうした知見を活用しながら、将来の雨の降り方、気温、水温などを考慮して、水資源のポテンシャルを把握することで、大きな課題解決に向けて進んでいくことができるのではないかと考えています。
河村
現状と将来の違いを認識して、水道水源としての荒川を正しく評価することと、そのデータを、行政に携わる様々な部局の者が共有することも、非常に重要ですね。

多様な立場の人たちが共通のプラットフォームを認識し水利用を議論するためのツール

表流水や地下水だけでなく、都市の自己水源である雨水や再生水の活用をいかに位置づけるかが重要です。

古米
私たちのプロジェクトでは、2013年5月と2014年11月に、荒川ワークショップを開催しました。その際、国土交通省水資源部さん、関東地方整備局荒川上流河川事務所さんには大変お世話になりました。皆さんのご協力なくしては、水に関わる多くの実務関係者の方の参加は見込めませんでしたから。
河村
こちらこそ、ありがとうございました。私たち行政に関わる者同士は、常に連携は意識しているものの、総合的にまとめて確認、研究する機会を持つことはなかったので、古米先生のお声がけで一同に集まって議論できたことは非常に有意義でした。そして、水利用システムのシナリオ作成ツールが開発されたことは画期的であり、とても将来性のある試みだと感じました。
古米
今回のシナリオ作成ツールは、様々な水需用、そして多様な水資源があって、同時に水利用する人の選好も色々だとした時に、例えば環境負荷の問題や、コスト、安全性、利便性といった様々な評価すべき項目がある中で、その多目的な要素を一同に集めて、その上でいろいろな代替案シナリオが提示できるという強みがあります。ちょうど2014年7月に、水循環基本法、雨水利用推進法が施行されて、その方向付けのための科学的知見、方法論、考え方を提供していかなければという思いもあり、ツールの作成には力を入れてきました。
河村
まさに国土交通省でも、基本法の概念や理念を提示しながら、具現化するための基本計画を策定しているところですから、今回のプロジェクトの成果は、ひとつのプラットフォームになり得ると感じました。そのプラットフォームが共有認識されれば、それをどう活用するかという段階にシフトできます。課題は、そのプラットフォームを長い目で見た時に、どう維持していくかという点です。

科学的、専門的な知見をできるだけ正確なままわかりやすく表示する

古米
河村さんのおっしゃる通りで、ワークショップの時にも、JSTのアドバイザーの方たちから、プロジェクトが完結した後には、どう継続的に維持していくのか、という質問を受けました。私自身の考えとしては、日本の大きな河川を管理されている国土交通省の水資源部さんなりが中心となって、様々な関係者の方々が連携して流域協議会を立ち上げていくことが大切だと思いますし、そうした場に大学として、また、本プロジェクトに関わった者として、今後も継続的に参加していくことは心から望んでいることでもあります。
河村
それはぜひとも、よろしくお願いします。
古米
また、よりよい水利用をデザインするためには、トップダウン+ボトムアップで、住民、あるいは水利用者も含めた利害関係者の積極的な参加、関与も必要です。今回開発したツールは、そうした住民と行政、専門家、事業体をつなぐ役割も果たすものであると思います。

シナリオ作成ツールの開発は、画期的でとても将来性のある試みだと思います。

河村
様々なステークホルダーに対する説明は、行政としても必要になってきますから、今回の試みはそうした場でも理解を深めるために役立つものであると思います。行政内部においても、例えば事業部局が、予算を持っているところに説明を求められたりした場合、具体的な数値で示すことによって、必要な予算を確保しやすくなるという面もあります。
古米
なるほど。様々な場面で利用されることを想定すれば、科学的な知見や専門的な内容を、できるだけ正確なまま、わかりやすく表示するというまとめ方、見せ方は、まだまだ工夫の余地がありますね。ぜひ、実務の方にもご意見をいただいて、よりよいものにしていけたらと思っています。今後ともご協力をよろしくお願いいたします。
河村
もちろんです。このシナリオ作成ツールの実用化に向けて、今以上に情報を共有しながら連携していければと思います。
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